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ば京阪神大都市圏の連担する市街空間をつくり出した。特に第2次大戦の戦災を経験した大阪・神戸では、大戦前と現在の都市では全く違う環境構造を持つものに変貌している。そしていま人々は、これまでの結果とは違う環境のあり方を期待し始めている。
このように考えてみると、古代ギリシャ以来今日までの間に、洋の東西それぞれのやり方で、都市と自然との共生的バランスをとる文明手段が取られてきたことがわかる。そしてそれは近代都市計画の中にも理念として伝えられたが、この数十年間における大都市化のエネルギーは、明らかに既成の手段を越える影響力を発揮して、都市丈明全体をひとつのジレンマに追い込んだと言えるであろう。都市が自己充足的に行動する時代は去ろうとしていると思う。都市が内なるものと外なるものの連携の中で、多様な共生条件をつくり出すことが必要なのである。
自然との共生を、現在の都市の状況を基礎として実現することは確かに容易ではない。しかし、明治以来100年の間に関西の山の緑が、裸山に近い状態から現状の森林状況に回復してきた実例でもわかるように、事態の困難さや実現に時間を要することと、計画を立てることの是非とは全く別の次元の問題なのである。幸いにして関西圏では、都市の間近に先人の努力で回復してきた山の緑と水脈がモザイク状に入り込んでいる。それは言わば生物遺伝子を備蓄してくれている倉である。この多様な遺伝子すなわち自然は、人工的な都市空間の中に向けて、その生命を倉から出して住み着かせる機会を待っているのである。われわれはその期待に応えて、都市の中にチャンスを創出すること、それが具体の行動指針となるであろう。われわれは都市の中に自然をつくるのではない。自然がやってくるチャンスを準備すれば良いのである。
1−4. 水系システムを軸とする関西圏のデザイン
我が国の国土は豊かな水と緑そして多様な生物相、海によって育まれた恵み豊かな気象を根幹としている。
この水・緑・生物・気象を受け止め、自然の活動と人間生活の結び付けを図り、真の豊かさと生活の自由を高めるものに向けて都市を再構築することを提案する。その発想・行動・技術開発は、新たな高度文明の創造に結び付くであろう。
幸い、関西地方は大阪湾を核とする稠密な水系ネットワークで構成された風土を持っている。このネットワークは同時に豊かな生物相の軸であり、古来、地域と地域を結ぶ都市の動き、人の動きを支える生活回廊であった。そしてそれはまさにひとつの大樹のようなシステム像として表現することができる。すなわち、水系を軸とする樹状システムを関西の都市構造に復権させ、都市生活・都市活動をこのシステムの中に組み込む方向に向けて、これからの都市づくり・都市開発を育てていくことを提案する。
樹木が根と幹と枝と葉からなるように、関西のグランドネットワークは「根」すなわち大阪湾ベイエリアの領域と、「幹」すなわち関西の広域活動を支える都市軸と、「枝」すなわち各都市ブロックと、「葉」に相当する地域クラスターに分化した構造を持つものとして発想できる。
この樹木、すなわち関西圏は、太陽・雨・風・そして生物相なるグローバルなインパクトによって養われていると同時に、地域クラスター、都市ブロック、都市軸、ベイエリアの多様な地域活動によってその生命を保っているし、その優美でバランスのとれた樹形を形造っているのである。その一部が力を失うと樹木全体のバランスは崩れ、一部が肥大化すれば樹形は異様なものとなる。そして「根」すなわちベイエリアはグローバルな養分を吸収するために健康でなければならない。関西圏全体がこのような多様な部分すなわちローカリティによって支えられる活動の集積であって初めてその全体が健やかな生命体になる。それは言い換えれば関西全体を機能的に連携し合った多様なローカリティの集合体にすることである。
京・阪・神三都からその他の県庁所在都市、準政令市、千里地域のような周縁都市を含めて、現在よりはるかに多様で多核的な都市拠点に分化し連携することによって、極部の混雑、環境悪化は改善され、全体として住み易い省エネルギー型の都市圏に育つであろう。
1−5. 関西圏のグランドネットワークづくり
都市活動を大きく把握すればグローバルなものに広がっていく、しかしそれを小さく把握すれば近隣の生活活動に絞られ、最終的には人間の行動に還元される。グローバルなシステムからヒューマンなシステムまで、都市はズームレンズのような伸縮自在の関心をもって、その構造再編が進められなければならない。水系は言うまでもなく、トータルな大河川とローカルな中小河川のシステムを持っている。それは都市交通のネットワークについても言えるし、都市の生活空間についても言える。
この提案は、例えば大阪湾や大河川を軸とするトータルなシステムと、地域ブロックを結び付ける中小河川のネットワークからなるローカルシステムの、両面で構造を組替える方向で考えたい。そうすることによって、グローバルな課題とローカルそしてヒューマンな課題に答えうるグランドネットワークが形成される。
このグランドネットワークを形成するためには府県域にとらわれない広域行政的取組みと、縦割的な狭い行政施策に分断されない総合行政的取組みが不可欠である。
水系は近畿圏全体をひとつに結び付けると同時に、生物相は山から海へ、大気の流れに沿って広範囲に結び付けられている。そして都心につくられた新たな緑・水辺は郊外の鳥や昆虫の新たなコロニーになる可能性を持っているのである。この圏域の生活上の一体性は人間にお

 

 

 

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